「亡くなった被害者本人に債務(借金)があるのですが、相続放棄をした方がよいのでしょうか」と心配された交通事故被害者のご遺族の方からご相談をお受けすることがあります。
相続をすることになれば、ご遺族の方がその債務(借金)についても支払わなければならなくなるため、このような心配をされるのは当然といえます。
ここでは、死亡事故と相続について、特に亡くなった被害者の方に債務(借金)があった場合の対応について、北九州・小倉の弁護士が説明いたします。
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死亡事故と相続
交通事故被害に遭い亡くなった方(故人)については、民法で定められた「相続人」に該当する方が、故人の慰謝料や逸失利益などを相続し、加害者や相手方保険会社に賠償請求をしていくことになります。
一方で、「相続人」に該当する方は、このような故人の慰謝料や逸失利益といったプラスの財産だけでなく、故人に債務(借金)があった場合には、このマイナスの財産も相続することになるので、返済をしていかなければならないことになります。
なお、「相続人」に該当する方は、亡くなられた方の配偶者や子、親、兄弟姉妹の法定相続人たちとなります。
債務(借金)を免れる方法とその注意点
このように、故人の債務(借金)を相続してしまったら、返済をする義務が発生してしまいます。しかしながら、相続手続をする前に、家庭裁判所において「相続放棄」の手続きをすることで、これを免れることができます。
もっとも、「相続放棄」をする場合は以下の点に注意しなければなりません。
プラスの財産も相続できなくなること
相続放棄をする場合、一部の財産だけ(例えば借金だけ)の相続を放棄することはできず、相続放棄をする場合には、プラスの財産もマイナスの財産もすべてを放棄することになります。
期間制限があること
相続放棄は、被害者の方が亡くなったことを知ってから3か月の熟慮期間内に手続きをする必要があります。
もっとも、被害者の方に債務(借金)の正確な金額の調査や示談の成立までに時間がかかり、3か月以内に相続放棄するかどうかを決断できないこともあり得ます。
このような場合には、家庭裁判所に対して「放棄の期間の伸長」という申立てをすることで、3か月の熟慮期間を伸長することができます。
故人の資産を使用できないこと
葬儀費用などのために、故人(被相続人)の預金などの資産を使用してしまうと、「単純承認」言い換えれば普通に相続したものとされてしまい、相続放棄をすることができなくなります。
次順位の相続人も手続きをする必要がでてくること
被害者の方に子どもがいる場合には、その子どもが第1順位の相続人、被害者の親が第2順位の相続人、被害者の兄弟姉妹が第3順位の相続人になります。
このような場合に、第1順位の被害者の子どもが相続放棄をすると、第2順位の被害者の親が相続人になります。さらに被害者の親が相続放棄をすると第3順位の被害者の兄弟姉妹が相続人になります。
そのため、多額の借金があることを理由に相続放棄するような場合には、第1順位の相続人だけでなく、第2順位、第3順位の相続人まで相続放棄をしなければ、相続により誰かが多額の借金を負ってしまうことになります。
相続放棄は不要であることが多い
このように、亡くなった被害者の方に債務(借金)があった場合には、相続放棄をすることで債務(借金)を相続することを免れることができるのですが、実際に相続放棄が必要となるケースは少ないです。
というのも、被害者遺族の方が加害者に対して賠償請求することができる損害としては、主に死亡慰謝料と死亡事故における逸失利益があるところ、これらの損害は数千万円と高額になることが多いため、被害者の方に債務(借金)が残っていても、賠償金により支払うことができる場合がほとんどです。
また、高額の住宅ローンが残っていたとしても、通常は住宅ローンを組む際に団体信用生命保険(住宅ローン返済中に契約者に万が一のことがあったときに、住宅ローン残高がゼロになる保険)に加入していることが多く、その場合は賠償金から返済する必要が生じません。
仮にこのような保険に加入していないとしても、自宅などの担保により精算することもできますし、担保価値が残債務に満たない場合でも賠償金を充てることで完済することもできます。
このようなことから、相続放棄が必要となるケースとしては、亡くなった方が数千万円程度の極めて高額な債務を負っていたような特殊な事案に限られるといえるでしょう。
まとめ
亡くなった被害者の方に債務(借金)があった場合の対応については以上のとおりですが、実際に相続放棄すべきかどうかを判断するのは難しい問題ですので、交通事故事案に注力する弁護士に相談・依頼されることをおすすめいたします。
当事務所では、交通事故に遭われた方、そのご遺族の方に、お気軽にご相談いただけるよう、交通事故に関する初回相談を無料で行っておりますので、是非、北九州・小倉の当事務所までお気軽にご相談ください。
交通事故でご家族やご親族を失った悲しみは決して癒えるものではありませんが、弁護士に相談し、交渉を任せることで、負担が軽くなり、少しでもお気持ちが楽になるよう全力でサポートさせていただきます。