交通事故被害に遭った際に最も多いのは、首や腰が痛いといった「むち打ち」です。
そのため、むち打ちの傷害を負った場合の慰謝料額はどのようなものになるのか、むち打ちが後遺障害に該当することがあるのかといったご質問をよく受けます。
ここでは、交通事故によって「むち打ち」の傷害を負った場合に慰謝料や後遺障害について、北九州・小倉の弁護士が説明いたします。
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むち打ち(末梢神経障害)とは
むち打ちとは、交通事故などの衝撃で、首がむちのようにしなったことにより起きた首の怪我のことをいいます。
医学的な診断名は、頸椎捻挫、頸部挫傷、外傷性頸部症候群などをいいます。
具体的な症状としては、首の痛み、背中の痛みや凝り、肩の痛みや凝り、倦怠感、頭痛やめまい、耳鳴りなど多種多様です。
むち打ちになった際には、同時に首の神経を傷付けてしまっており、指先にしびれが生じてしまうこともあります。
このような指先のしびれの症状は、末梢神経障害と呼ばれ、事故に遭った方を長く苦しめる原因になります。
むち打ち(末梢神経障害)の慰謝料
入通院慰謝料
交通事故に遭い、むち打ちの傷害を負った場合には、治療費や休業損害に加え、入通院慰謝料を請求することができます。
入通院慰謝料は、交通事故によって怪我を負ったときに認められる慰謝料です。
慰謝料の金額は、どのような基準で計算されるかによって大きく異なってきます。慰謝料算定の基準は具体的には、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準の3つがあります。
以下では、自賠責基準と任意保険基準による通院慰謝料額について説明します。
自賠責基準
まず、自賠責基準は、自賠責保険で保険金を計算する際に利用されているものです。自賠責保険は、もともと交通事故被害者に対する最低限の給付を目的とする保険であるため、支払金額も当然低くなります。
自賠責基準の入通院慰謝料の計算方法は以下のとおりです。
入通院慰謝料=4300円×治療日数
この場合の治療日数とは、治療期間(治療を開始してから治癒日あるいは症状固定日まで)の日数と、実際に入通院した日数を2倍した日数を比べて少ないほうです。
例えば、追突事故被害で治療期間が90日で、通院が35日の場合、実際に通院した日数35日を2倍した日数は70日となります。
そうすると、治療期間90日より実際に通院した日数を2倍した日数70日の方が少ないことになるため、このケースの場合の治療日数は70日となり、入通院慰謝料額は以下のとおりとなります。
4300円×70日=30万1000円
弁護士基準
弁護士基準は、過去の裁判例等を元にした法的に根拠のある正当な基準です。
裁判で慰謝料を請求するときにも採用されているものなので、裁判所基準とも呼ばれています。金額的にも上記の3つの基準の中で最も高額になります。
弁護士基準(民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準(いわゆる「赤い本」)の入通院慰謝料は、基本的に赤い本記載の別表Ⅰと別表Ⅱの2種類の表に基づいて算定されますが、むち打ち症で他覚症状がない場合は、別表Ⅱを用います。
別表Ⅱの内容は以下のとおりとなります。
入院月 | ||||||||||||
0月 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | ||
通 院 月 |
0月 | 0 | 35 | 66 | 92 | 116 | 135 | 152 | 165 | 176 | 186 | 195 |
1月 | 19 | 52 | 83 | 106 | 128 | 145 | 160 | 171 | 182 | 190 | 199 | |
2月 | 36 | 69 | 97 | 118 | 138 | 153 | 166 | 177 | 186 | 194 | 201 | |
3月 | 53 | 83 | 109 | 128 | 146 | 159 | 172 | 181 | 190 | 196 | 202 | |
4月 | 67 | 95 | 119 | 136 | 152 | 165 | 176 | 185 | 192 | 197 | 203 | |
5月 | 79 | 105 | 127 | 142 | 158 | 169 | 180 | 187 | 193 | 198 | 204 | |
6月 | 89 | 113 | 133 | 148 | 162 | 173 | 182 | 188 | 194 | 199 | 205 | |
7月 | 97 | 119 | 139 | 152 | 166 | 175 | 183 | 189 | 195 | 200 | 206 | |
8月 | 103 | 125 | 143 | 156 | 168 | 176 | 184 | 190 | 196 | 201 | 207 | |
9月 | 109 | 129 | 147 | 158 | 169 | 177 | 185 | 191 | 197 | 202 | 208 | |
10月 | 113 | 133 | 149 | 159 | 170 | 178 | 186 | 192 | 198 | 203 | 209 |
上記の通院期間が90日(3か月)、実通院日数35日のケースであれば、弁護士基準である別表Ⅱによると、入通院慰謝料額は53万円ということになり、自賠責基準で計算したと場合と比較して20万円以上増額することになります。
後遺障害慰謝料
「むち打ち」の後遺障害該当性
「むち打ち」であっても、他の傷害と同じように、治療終了後に症状が残り、その症状が自賠責保険の後遺障害の等級に該当すれば、残った症状に対する賠償を受けることができます。
むち打ちや末梢神経障害の場合において認定される後遺障害等級は、12級13号と14級9号があります。
12級13号とは、「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当する場合であり、痛みや手先のしびれなどの自覚症状がMRIなどの画像所見や神経学的検査によって客観的に裏付けられていることが必要になります。
14級9号とは、「局部に神経症状を残すもの」に該当する場合であり、12級の場合と異なり、客観的に裏付けられていることまでは不要となりますが、痛みや手先のしびれなどの自覚症状が、事故時から治療終了時まで連続性・一貫性が認められ、説明可能なことが必要になってきます。
14級9号の後遺障害認定を受けるためには
むち打ちや末梢神経障害の場合に認定される後遺障害等級は、ほとんどの場合が14級9号になります。そのため、14級9号の後遺障害等級の認定を目指すにあたっては、客観的な裏付けがない症状であるため、治療中の段階から下記の内容を意識することが重要です。
①事故態様が症状を発生する程度のものであるか
事故態様、例えば衝突時の衝撃などが重ければ重いほど、後遺障害等級認定の可能性が高くなっていきます。
そのため、双方車両の写真、修理見積書などを準備して、事故態様の重さを主張立証していくことになります。
②事故当初から病院への通院を継続しているか
「むち打ち」は、画像所見などの客観的な裏付けがなく、自覚症状しかないケースがほとんどであり、通院頻度が少なかったり、長期間時間が空いてしまったりした場合には、症状が軽度なものであると認定されてしまう危険性があります。
そのため、定期的・継続的(週2、3回が望ましいです)に通院することが必要かつ重要であるといえます。
③事故当初からの症状の訴えが、連続・一貫しているか
当初は首から右肩にかけて痛いと説明していたのに、突然、左肩にかけて痛い・腰が痛いなどと説明しだしたり、痛みやしびれの程度が増減を繰り返すような場合には、本当に痛みやしびれといった症状があるのか疑われてしまうことになります。
そのため、主治医の先生に対しては、常に自覚症状をしっかりと伝えるとともに、伝えた自覚症状を診断書やカルテに記載しておいてもらうことが重要です。
④症状がそれなりに重篤であり、常時性が認められるものか
むち打ちの症状が、首に違和感がある、雨の日に痛みが出るといった程度では日常生活に支障はないと判断される可能性があります。
そのため、症状がそれなりに重篤であり、症状が常に出ているかどうかが重要となるので、診察の際に主治医の先生に自分の症状をしっかり説明しておくこと、その内容を診断書やカルテに記載しておいてもらうことが大切です。
「むち打ち」が後遺障害に該当する場合の慰謝料額
むち打ちや末梢神経障害が後遺障害認定された場合には、認定された等級に応じて後遺障害慰謝料の賠償を受けることができます。
後遺傷害慰謝料とは、後遺障害が残ったことにより、被害者が受ける精神的苦痛に対する慰謝料です。
賠償金の金額の基準としては、入通院慰謝料と同様に、弁護士基準と自賠責基準があります。上記のように、むち打ちや末梢神経障害の場合において認定される後遺障害等級は12級13号と14級9号があるところ、各等級ごとの賠償額は以下のとおりです。弁護士基準の場合には個々の事案に応じて増減額される可能性があります。
弁護士基準 | 自賠責基準 | |
12級 | 290万円 | 93万円 |
14級 | 110万円 | 32万円 |
このように、弁護士基準と自賠責基準では同じ等級でも大きく金額が異なることになります。
まとめ
以上のように、「むち打ち」の傷害を負った場合、入通院慰謝料に加え、その症状が後遺障害に該当する場合には後遺障害慰謝料が発生することになります。
そして、賠償額を決めるにあたっては、加害者側の任意保険会社から自賠責基準があたかも正当な基準であるかのように説明してくることが多々あります。
しかし、弁護士が被害者の方の代理人となって示談交渉を行うと、弁護士基準を前提として交渉を行うため、被害者本人が任意保険会社と直接交渉を進めた場合と比べ、大幅に示談金が増額されることになります。
なお、被害者本人が弁護士基準で計算することを求めても、任意保険会社が応じることはありません。
また、治療中の段階から弁護士がサポートすることにより、上記の「むち打ち」の場合に後遺障害の認定を受けるために必要な点を意識して治療や診察を受けることができるため、弁護士に依頼することにより、後遺障害等級の認定がされる可能性も増加するといえます。
交通事故被害に遭われ、「むち打ち」の傷害を負ったことに関して、当事務所にご相談いただければ、相手方保険会社が提示している賠償金が適切なのか、不適切なのであればどれだけ修正できる可能性があるのか等を検討のうえご説明させていただきます。
また、後遺障害認定に向けたアドバイス等もさせていただきます。
当事務所では、交通事故に遭われた方に、お気軽にご相談いただけるよう、交通事故に関する初回相談を無料で行っておりますので、是非、北九州・小倉の当事務所までお気軽にご相談ください。