死亡事故

交通事故により大切な家族や親族を失われたご遺族の方たちの悲しみは、計り知れないものだと存じます。

そのような中でも、ご遺族の方は、関係各所への届出や相続などの手続きに加え、加害者や相手方保険会社と交通事故の賠償金に関する話も進めていかなければなりません。

ここでは、死亡事故により家族や親族を失われたご遺族の方たちに知っておいていただきたいポイントについて北九州・小倉の弁護士が説明いたします。

示談交渉は遺族(相続人)が行うこと

死亡事故による直接の被害者は被害に遭われたご本人なのですが、亡くなられている以上、被害者ご本人が示談交渉の当事者となることはできません。

そのため、被害者ご本人の損害賠償請求権を相続したご遺族(相続人)が、加害者や相手方保険会社との示談交渉を進めていくことになります。

相続人が複数にいらっしゃる場合には、ご遺族(相続人)の中から代表者を定めて、その代表者が加害者側保険会社と示談交渉をしていくことになります。

損害賠償金は遺産分割の対象になること

複数の相続人の方がいる場合、相続人の方たちは、亡くなられた被害者ご本人の損害賠償請求権を相続していますので、相手方保険会社から受け取った賠償金も、被害者ご本人の預貯金や不動産などの資産と同様に遺産分割の対象になります。

法定相続分の割合により遺産分割を行うことが多いですが、遺産分割協議で合意をすることで、法定相続分と異なる割合で相続することも可能です。

また、亡くなられた被害者の方に未成年のお子様がいらっしゃる場合には、遺産分割協議を成立させるために、裁判所から「特別代理人」を選任してもらわなければならないこともあります。

相手方保険会社の賠償提示額を鵜呑みにしないこと

死亡事故の場合、被害者ご本人が事故状況を説明できないため、被害者側の過失割合が高めに設定され、争点となることがあります。

また、被害者遺族の方が加害者に対して賠償請求することができる損害としては、主に死亡するまでの怪我による損害(治療関係費、休業損害など)、葬儀費用、死亡事故における逸失利益、死亡慰謝料があるのですが、その中でも、特に逸失利益と慰謝料の提示額が適切でない場合があるので注意が必要です。

以下では、相手方保険会社の賠償提示額を適切に判断することができるよう、過失割合、逸失利益、死亡慰謝料について説明します。

過失割合について

交通事故実務上では、過去の裁判例の蓄積などにより、交通事故の状況を一般化・類型化し、ケース毎に基本的な過失割合とそれを修正すべき要素が定められています。

これが記載されている書籍が「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(全訂5版)」(別冊判例タイムズ38)であり、実務上「判タ基準」などと呼ばれています。

このように、過失割合の基準はある程度類型化されているのですが、加害者側の保険会社が常に適切な判タ基準の交通事故類型を選択しているわけではありませんし、そもそも加害者本人が自身に都合の良い説明しかしていない場合もあります。

そのため、加害者側保険会社が適切な過失割合の提案をしていないときには、事故態様などについて争っていかなければなりません。

死亡事故における逸失利益について

死亡事故における逸失利益とは、交通事故の被害者の方が事故に遭い亡くなってしまったことにより、得られなくなった将来得られたであろう収入のことをいいます。

死亡事故における逸失利益は、原則として以下の計算式により算出されます。

①基礎収入×②(1-生活費控除率)×③就労可能年数に対応するライプニッツ係数

①基礎収入額について

原則として、事故前の1年間の収入が基礎収入となります。

亡くなられた被害者の方の職業によって内容が異なるので簡単に説明します。

サラリーマンの方が亡くなられた場合には、原則どおり事故前1年間の控除前の総支給額が基礎収入となります。

自営業やフリーランスの方が亡くなられた場合には、事故前年の確定申告の申告所得額が基礎収入となります。もっとも、申告所得額が実態と異なっている方もいらっしゃいます。そのような場合には、実際の収入額を客観的資料により証明することができれば、実際の収入額を基礎収入となります。

家事従事者(主婦(主夫))の方が亡くなられた場合には、給料という形の収入こそありませんが、家事労働には経済的な価値があると認められているので、家事従事者方であっても逸失利益を請求することができます。具体的には、全年齢の女性の平均賃金を基礎収入とします。

高齢者の方が亡くなられ、その方が年金を受給していた場合は、その年金を将来受け取ることができなくなってしまうので、逸失利益を請求することができ、年金額を基礎収入とします。

子ども(学生の方)が亡くなられた場合は、収入はありませんが、将来働くことで得られるはずであった分について逸失利益を請求することができます。具体的には、男女別の全年齢の平均賃金を基礎収入とします。大学生の方の場合は、大卒者の平均賃金を基礎収入とします。 

②生活費の控除率について

亡くなられたことにより生活費がかからなくなるため、その分を控除する必要があります。原則として以下の割合を収入額から控除します。

  • 一家の支柱:30~40%を収入額より控除
  • 女子(主婦・独身・幼児を含む):30~40%を収入額より控除
  • 男子(独身・幼児を含む):50%を収入額より控除

③就労可能年数に対応するライプニッツ係数

原則として、67歳までを就労可能年数としますが、開業医・弁護士については70歳までとされる場合もあります。およそ55歳以上の高齢者(主婦を含む)については67歳までの年数と平均余命の2分の1のいずれか長期の方を使用します。

また、逸失利益は、原則として、全額が一括で支払われるのですが、将来の賠償金を先に受け取ることになるので、上記の年数に対応する、将来の利息(中間利息)を考慮した数値を用いて計算することになります。これをライプニッツ係数といいます。

例えば、症状固定時の年齢が50歳であれば、就労可能年数が12年(67歳-50歳)となります。そして、就労可能年数が12年の場合のライプニッツ係数は「9.954」となるので、この係数を用いて計算していくことになります。

このような後遺障害逸失利益については、相手方保険会社が適切な基礎収入や就労可能年数を採用しているのかなど問題となる点が多くあり、そのどれもが賠償金額に大きな影響を与えるものであるため、注意が必要です。

死亡慰謝料について

死亡事故の慰謝料も、傷害慰謝料(入通院慰謝料)や後遺障害慰謝料と同様に、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準(裁判所基準ともいいます。)があります。

自賠責基準

自賠責基準は、自賠責保険で保険金を計算する際に利用されているものです。

自賠責保険は、もともと交通事故被害者に対する最低限の給付を目的とする保険であるため、支払金額も当然低くなります。

具体的には以下のような金額になっています。

  • 死亡事故の被害者本人の慰謝料 400万円
  • 遺族(配偶者・子・父母)の慰謝料
    ・遺族1名の場合 550万円
    ・遺族2名の場合 650万円
    ・遺族3名以上の場合  750万円

なお、被害者に扶養されていた者がいる場合、上記金額に200万円が加算されます。

任意保険基準

任意保険基準は、任意保険会社が保険金を計算するために独自に定めている基準です。

自賠責基準よりは多少高めに設定されていることが多いようですが、後述する弁護士基準と比べるとかなり低い金額に設定されています。

弁護士基準

弁護士基準は、過去の裁判例等を元にした法的に根拠のある正当な基準です。

裁判で謝料を請求するときにも採用されているものなので、裁判所基準とも呼ばれています。

金額的にも上記の3つの基準の中で最も高額になります。弁護士が被害者の方の代理人となって示談交渉を行うと、弁護士基準を前提として交渉を行うため、被害者本人が任意保険会社と直接交渉を進めた場合と比べ、大幅に示談金が増額されることになります。

なお、被害者本人が弁護士基準で計算することを求めても、任意保険会社が応じることはありません。

具体的には以下のような金額になっています。以下の金額には、上記の自賠責基準にあった遺族の慰謝料も含まれています。実際の裁判では、事案ごとの個別事情により増額されることもあります。

  • 被害者が一家の支柱の場合 2800万円
  • 被害者が母親・配偶者の場合 2500万円
  • 被害者がその他の場合 2000~2500万円

なお、「その他」とは、独身の男女、子供、高齢者などとされています。

このように、死亡慰謝料については、どの基準を採用するかにより大きく賠償額が異なってくることになるため、注意が必要です。

被害者参加制度があること

交通事故により大切な家族や親族を失われたご遺族の方たちの中には、刑事裁判の中で自分の思いを裁判官や裁判員に伝えたいと考えられている方は多くいらっしゃるかと思います。

そのような場合、遺族の方が、加害者の刑事事件に、被害者として参加することが可能です。

「被害者参加制度」とは、一定の事件の被害者やご遺族等の方々が、刑事裁判に参加して、公判期日に出席したり、被告人質問などを行うことができるというものです。

具体的には以下のようなことをすることができます。

  • 原則として、公判期日に、法廷で、検察官席の隣などに着席し、裁判に出席することができます。
  • 証拠調べの請求や論告・求刑などの検察官の訴訟活動に関して意見を述べたり、検察官に説明を求めることができます。
  • 情状に関する証人の供述の証明力を争うために必要な事項について、証人を尋問することができます。
  • 意見を述べるために必要と認められる場合に、被告人に質問することができます。
  • 証拠調べが終わった後、事実又は法律の適用について、法廷で意見を述べることができます。

なお、被害者参加に際して、弁護士(被害者参加弁護士)に委託して援助を受けることができ、また、経済的に余裕のない方については、裁判所が被害者参加弁護士を選定し、国がその費用を負担する制度(被害者参加人のための国選弁護制度)もあります。

被害者参加人の方が弁護士に援助を依頼された場合には、検察官は、被害者参加弁護士と連絡・協力して裁判に臨みます。

まとめ

上記のポイントは、いずれも法的な知識や手続きが必要であったり、賠償金の金額にも大きな影響を与えるものです。そのため、いくら上記のポイントを知っていただけたからといって、ご遺族の方だけで手続きを進めていくことは困難です。

そこで、死亡事故によりご家族やご親族を失われたご遺族の方たちは、交通事故事案に注力する弁護士に相談・依頼されることをおすすめいたします。

当事務所では、交通事故に遭われた方、そのご遺族の方に、お気軽にご相談いただけるよう、交通事故に関する初回相談を無料で行っておりますので、是非、北九州・小倉の当事務所までお気軽にご相談ください。

交通事故でご家族やご親族を失った悲しみは決して癒えるものではありませんが、弁護士に相談し、交渉を任せることで、負担が軽くなり、少しでもお気持ちが楽になるよう全力でサポートさせていただきます。  

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