交通事故被害に遭った後、仕事に集中できなくなった、怒りっぽくなった、無気力な状態が続くようになった、物忘れがひどくなったなどの症状が残る被害者の方がいらっしゃいます。
交通事故被害に遭われた方で、このような症状がある場合、「高次脳機能障害」という後遺症(後遺障害)が残っている可能性があります。
ここでは、交通事故の後遺障害としての「高次脳機能障害」について、北九州・小倉の弁護士が説明いたします。
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高次脳機能障害とは
高次脳機能障害は、交通事故の外傷などによって脳が損傷を受け、認知機能が低下・消失する傷病です。
認知機能が低下するという点で、「認知症」に症状がよく似ていますが、高次脳機能障害は、外傷やくも膜下出血などの疾患を原因として起こるものであり、リハビリによって多少改善する可能性があるなどといった点で認知症とは症状が異なります。
高次脳機能障害特有の症状
以下のような症状が高次脳機能障害によるものとして挙げられます。
- 遂行機能障害
物事について計画を立てて実行することができない - 注意障害
気が散りやすく、ものごとに集中することができない - 記憶障害
忘れっぽくなる、新しいことが覚えられなくなる - 行動障害
周囲に合わせた行動ができない、マナーやルールを守れない - 人格変化
怒りっぽくなる、暴力的になる、無気力になる - 失語症
文字で書かれた文章が理解できない、話ができない - 失認症
見落としが増える、片側の壁にぶつかりやすくなる、料理を半分残す - 病識欠落
障害を持っていることの認識がうまくできない
高次脳機能障害で認定される後遺障害の等級
高次脳機能障害が自賠責保険の後遺障害の等級に該当すれば、残った症状に対する賠償を受けることができます。
高次脳機能障害において認定される後遺障害等級は、1級1号、2級2号、3級3号、5級2号、7級4号、9級10号があります。なお、症状によっては、12級13号、14級9号が認定されることもあります。
常に介護を要する(1級1号)
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要する場合は、1級1号に該当するところ、その具体的な内容は以下のとおりです。
身体機能は残存しているが高度の痴呆があるために、生活維持に必要な身の回りの動作に全面的介護を要するもの。
随時介護を要する(2級2号)
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要する場合は、2級2号に該当するところ、その具体的な内容は以下のとおりです。
著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって、1人で外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されており、身体動作的には、排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声かけや看視を欠かすことができないもの。
終身労務に服することができない(3級3号)
神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができない場合は、3級3号に該当するところ、その具体的な内容は以下のとおりです。
自宅周辺を一人で外出できるなど、日常の生活範囲は限定されていない。また、声かけや、介助なしでも日常の動作を行える。しかし、記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般労務が全くできないか、困難なもの。
特に軽易な労務以外の労務に服することができない(5級2号)
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができない場合は、5級2号に該当するところ、具体的な内容は以下のとおりです。
単純くり返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし、新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため、一般人に比較して、作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの。
軽易な労務以外の労務に服することができない(7級4号)
神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができない場合は、7級4号に該当するところ、その具体的な内容は以下のとおりです。
一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの。
服することができる労務が相当な程度に制限される(9級10号)
神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限される場合は、9級10号に該当するところ、その具体的な内容は以下のとおりです。
一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの。
高次脳機能障害で後遺障害認定を受けるポイント
高次脳機能障害が後遺障害として認定されるためには、以下の3つのポイントを満たすことができるかが重要になります。これらを満たすことができた場合に、高次脳機能障害と認定され、症状の程度に応じた後遺障害等級が認定されることになります。
頭部外傷による脳障害の診断名がついていること
まず一つ目のポイントとして、脳挫傷、くも膜下出血、硬膜下血腫、びまん性軸索損傷などの頭部外傷による脳障害の診断名がついていることが必要になります。併せて 頭部のMRIやCT画像などにより、頭蓋骨骨折や脳出血などの脳損傷の他覚所見が認められることが必要です
なお、診断名がびまん性軸索損傷の場合は特に注意が必要です。びまん性軸索損傷は、頭部外傷後、意識障害を呈しているにもかかわらず、頭部CT、MRIで明らかな血腫、脳挫傷を認めない病態です。そのため、びまん性軸索損傷の場合は、このポイントを満たせないことが多いです。
そこで、びまん性軸索損傷の場合には、経時的に脳室拡大、能委縮等の有無を確認する必要があるため、事故直後から継続的にMRI撮影を続けるなどの対策が必要になります。
意識障害があったこと
二つ目のポイントとして、事故後連続して、昏睡状態や半昏睡状態が6時間以上続いいたこと、若しくは事故後に軽度な意識障害や健忘状態が1週間以上続いたことが必要になります。
高次脳機能障害特有の症状があること
最後のポイントとして、すでに説明した人格変化、認知能力低下など高次脳機能障害特有の精神症状が発生していることが必要になります。
まとめ
高次脳機能障害は、後遺障害と認定されるためのハードルが高く、治療終了後に高次脳機能障害だとして弁護士に相談・依頼をしても、高次脳機能障害として後遺障害認定をされるケースは少ないのではないかと思います。
また、高次脳機能障害の後遺障害認定を受けるためには、画像検査結果や医師に作成してもらう資料、親族が作成する資料や看護記録などの必要資料が多くなり、手続き自体に手間と時間がかかります。
そのため、上記のような症状がある交通事故被害者の方は、事故後できるだけ早く交通事故事件に注力する弁護士に相談・依頼し、治療や資料収集を進めていく上でアドバイスやサポートを受けられることをおすすめします。
当事務所では、交通事故に遭われた方に、お気軽にご相談いただけるよう、交通事故に関する初回相談を無料で行っておりますので、是非、北九州・小倉の当事務所までお気軽にご相談ください。