交通事故の衝撃により、脊髄を損傷することがあります。脊髄は人体における極めて重要な中枢神経組織であるので、このような脊髄が損傷すると、手足が動かせなくなる、感覚がなくなるといった日常生活や仕事に多大な支障が生じることになってしまいます。
そのため、交通事故により脊髄損傷を負った被害者の方は、後遺障害認定を受け、後遺障害慰謝料だけでなく、労働能力が低下したことによる逸失利益についても適切な賠償を受ける必要があります。
ここでは、交通事故の後遺症(後遺障害)としての「脊髄損傷」について、北九州・小倉の弁護士が説明いたします。
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脊髄損傷とは
「脊髄」とは、背骨の中を通っている中枢神経組織のことで、脳からつながっており身体の各部位に脳の指令を伝える働きをしています。
この脊髄が損傷すると、脳からの信号を手や足などに適切に届けることができなくなるため、運動障害、感覚障害、排尿障害などの様々な障害が生じることになります。これを「脊髄損傷」といいます。
脊髄損傷の症状
以下のような症状が脊髄損傷によるものとして挙げられます。
- 運動麻痺
手足を動かすことができなくなる - 感覚障害
触覚や熱感・痛覚などの感覚が失われる、減退する - 反射異常
筋反射などが消失する - 循環器障害
脈拍異常、血圧低下、血液量の減少、浮腫や肺水腫などが発生する - 呼吸障害
頚髄を損傷すると自力呼吸が困難となる - 排尿排泄障害
尿排泄を制御できず、自力でできなくなる
脊髄損傷で認定される後遺障害の等級
脊髄損傷が自賠責保険の後遺障害の等級に該当すれば、残った症状に対する賠償を受けることができます。
脊髄損傷において認定される後遺障害等級は、1級1号、2級1号、3級3号、5級2号、7級4号、9級10号、12級13号があります。
脊髄損傷で後遺障害認定を受けるためには、MRIやレントゲンなどによる脊髄損傷や脊髄圧迫の画像所見を得る必要があります。それとともに、「脊髄症状判定用」という医師への照会様式を用いて、具体的な症状の内容などを、立証していくことが必要になります。
常に介護を要するもの(1級1号)
生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に介護を要する場合は、1級1号に該当するところ、その具体的な内容は以下のとおりです。
- 高度の四肢麻痺が認められるもの
- 高度の対麻痺が認められるもの
- 中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの
- 中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの
随時介護を要するもの(2級1号)
せき髄症状のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要する場合は、2級1号に該当するところ、その具体的な内容は以下のとおりです。
- 中等度の四肢麻痺が認められるもの
- 軽度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの
- 中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの
労務に服することができないもの(3級3号)
生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、せき髄症状のために労務に服することができない場合は、3級3号に該当するところ、その具体的な内容は以下のとおりです。
- 軽度の四肢麻痺が認められるものであって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要しないもの
- 中等度の四肢麻痺が認められるものであって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要しないもの
きわめて軽易な労務にしか服することができないもの(5級2号)
せき髄症状のため、きわめて軽易な労務のほかに服することができない場合は、5級2号に該当するところ、その具体的な内容は以下のとおいです。
- 軽度の対麻痺が認められるもの
- 一下肢の高度の単麻痺が認められるもの
軽易な労務以外には服することができないもの(7級4号)
せき髄症状のため、軽易な労務以外には服することができない場合は、7級4号に該当するところ、その具体的な内容は以下のとおいです。
- 一下肢の中等度の単麻痺が認められるもの
就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの(9級10号)
通常の労務に服することはできるが、せき髄症状のため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限される場合は、9級10号に該当するところ、その具体的な内容は以下のとおりです。
- 一下肢に軽度の単麻痺が認められるもの
多少の障害を残すもの(12級13号)
通常の労務に服することはできるが、せき髄症状のため、多少の障害を残す場合は、12級13号に該当するところ、その具体的な内容は以下のとおりです。
- 運動性、支持性、巧緻性及び速度についての支障がほとんど認められない程度の軽微な麻痺を残すもの
- 運動障害は認められないものの、広範囲にわたる感覚障害が認められるもの
脊髄損傷が後遺障害に該当する場合の損害
後遺障害慰謝料
脊髄損傷が後遺障害認定された場合には、認定された等級に応じて後遺障害慰謝料の賠償を受けることができます。
後遺傷害慰謝料とは、後遺障害が残ったことにより、被害者が受ける精神的苦痛に対する慰謝料です。
賠償金の金額の基準としては、弁護士基準と自賠責基準があります。
上記のように、脊髄損傷の場合において認定される後遺障害等級は1級1号、2級1号、3級3号、5級2号、7級4号、9級10号、12級13号があるところ、各等級ごとの賠償額は以下のとおりです。
弁護士基準の場合には個々の事案に応じて増減額される可能性があります。
弁護士基準 | 自賠責基準 | |
1級 | 2800万円 | 1650万円 |
2級 | 2370万円 | 1203万円 |
3級 | 1990万円 | 861万円 |
5級 | 1400万円 | 618万円 |
7級 | 1000万円 | 409万円 |
9級 | 690万円 | 245万円 |
12級 | 290万円 | 93万円 |
後遺障害逸失利益
脊髄損傷の後遺障害が残ることによって、被害者の方の労働能力が低下することになります。
労働能力が低下すれば、将来的に得られる収入も減少することになるため、その減少分に相当する賠償を受けることができます。これを後遺障害逸失利益といいます。
後遺障害逸失利益は、原則として以下の計算式により算出されます。
①基礎収入×②労働能力喪失率×③労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
①基礎収入額について
原則として、事故前の1年間の収入が基礎収入となります。
サラリーマンの方の場合には、原則どおり事故前1年間の控除前の総支給額が基礎収入となります。
自営業の方やフリーランスの方の場合には、事故前年の確定申告の申告所得額が基礎収入となります。もっとも、申告所得額が実態と異なっている方もいらっしゃいます。
そのような場合には、実際の収入額を客観的資料により証明することができれば、実際の収入額を基礎収入となります。
主婦(主夫)の方の場合には、給料という形の収入こそありませんが、家事労働には経済的な価値があると認められているので、家事従事者である主婦(主夫)の方も逸失利益を請求することができます。具体的には、全年齢の女性の平均賃金を基礎収入とします。
高齢者の方の場合は、年金収入のみで生活しており、今後も働く予定がないのであれば、基礎収入はゼロなります。年金という収入は得ていますが、年金は事故により金額が下がるということがなく、将来的に得られる収入が減少することがないためです。
子ども(学生の方)の場合は、収入はありませんが、将来働くことで得られるはずであった分について逸失利益を請求することができます。
具体的には、男女別の全年齢の平均賃金を基礎収入とします。大学生の方の場合は、大卒者の平均賃金を基礎収入とします。
②労働能力喪失率について
労働能力喪失率とは、労働能力の低下の程度のことをいいます。
具体的には、労災基準に定められている下記の数値を適用して計算します。脊髄損傷の場合において認定される後遺障害等級であり1級1号、2級1号、3級3号、5級2号、7級4号、9級10号、12級13号に対応する労働能力喪失率は以下のとおりです。
後遺障害等級 | 労働能力喪失率 |
1級 | 100% |
2級 | 100% |
3級 | 100% |
5級 | 79% |
7級 | 56% |
9級 | 35% |
12級 | 14% |
③労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数について
労働能力喪失期間とは、後遺障害によって労働能力が制限される期間のことをいい、基本的には、症状固定時の年齢から67歳までの年数と症状固定時の年齢の平均余命の2分の1の年数のいずれか長い方の年数を用います。
また、逸失利益は、原則として、全額が一括で支払われるのですが、将来の賠償金を先に受け取ることになるので、上記の年数に対応する、将来の利息(中間利息)を考慮した数値を用いて計算することになります。
これをライプニッツ係数といいます。
例えば、症状固定時の年齢が50歳であれば、就労可能年数が12年(67歳-50歳)となります。
そして、就労可能年数が12年の場合のライプニッツ係数は「9.954」となるので、この係数を用いて計算していくことになります。
具体的な計算例
例えば、基礎収入が700万円、症状固定時の年齢が50歳(ライプニッツ係数9.954)の被害者の方の場合に、後遺障害等級が9級(労働能力喪失率35%)ということであれば、後遺障害逸失利益は2438万7300円(計算式:700万円×35%×9.954)になります。
後遺障害等級が1級(労働能力喪失率100%)ということであれば、後遺障害逸失利益は6967万8000円(計算式700万円×100%×9.954)になります。
その他の損害
被害者の方が脊髄損傷の後遺障害を負ってしまった場合には、ご家族による介護が必要となることもあります。
このような場合には、段差をなくすなど、自宅のバリアフリー化などを行うことも必要になるところ、必要性を立証することができれば、介護のために発生した費用についても損賠賠償を受けることも可能です。
まとめ
以上のように、脊髄損傷の後遺障害に関する賠償金は高額になることが多く、争点それぞれが賠償金額に大きく影響を与えることになります。
そのため、相手方保険会社からの提示をそのまま受け入れるのではなく、納得できない方は当然ですが、そのような方でなくても一度弁護士に相談することをおすすめします。
交通事故被害に遭われた方の後遺障害に関して、当事務所にご相談いただければ、相手方保険会社が提示している賠償金が適切なのか、不適切なのであればどれだけ修正できる可能性があるのか等を検討のうえご説明させていただきます。
当事務所では、交通事故に遭われた方に、お気軽にご相談いただけるよう、交通事故に関する初回相談を無料で行っておりますので、是非、北九州・小倉の当事務所までお気軽にご相談ください。