交通事故により大切な家族や親族を失われたご遺族の方たちの悲しみは、計り知れないものだと存じます。
そのような中でも、ご遺族の方は、関係各所への届出や相続などの手続きに加え、加害者や相手方保険会社と交通事故の賠償金に関する話も進めていかなければなりません。
死亡事故による直接の被害者は被害に遭われたご本人なのですが、お亡くなりになっていますから、被害者ご本人が示談交渉の当事者となることはできません。
そのため、基本的には、被害者ご本人の損害賠償請求権を相続したご遺族(相続人)が、加害者や相手方保険会社との示談交渉を進めていくことになります。
ここでは、死亡事故の示談の流れ、示談において弁護士に依頼しないことにより起こり得るデメリットについて、北九州・小倉の弁護士が説明いたします。
このページの目次
死亡事故の示談までの流れ
事故直後
交通事故によりご家族やご親族が亡くなられた場合の通常の流れとしては、死亡届などの諸手続を済ませ、通夜・葬儀を行い、その後、初七日、四十九日の法要を執り行います。
示談交渉の開始
通常、四十九日を過ぎた頃から相手方保険会社との示談交渉が始まります。
相手方保険会社からご遺族に連絡が来る場合もありますし、ご遺族の方から相手方保険会社に連絡しても構いません。
死亡事故による直接の被害者は被害に遭われたご本人なのですが、お亡くなりになっていますから、被害者ご本人が示談交渉の当事者となることはできません。
そのため、基本的には、被害者ご本人の損害賠償請求権を相続したご遺族(相続人)が、加害者や相手方保険会社との示談交渉を進めていくことになります。
相続人が複数いる場合には、ご遺族(相続人)の中から代表者を定めて、その代表者が加害者側保険会社と示談交渉をしていくことになります。
示談案の提示
事故ごとに賠償金の金額や過失割合が異なります。
相手方保険会社は、医療記録や刑事記録、ご遺族から提出された被害者の方の生前の収入資料等により、賠償金額の計算、過失割合の検討を行い、ご遺族に示談案を提示します。
示談書の作成
相手方保険会社から示談案の提示を受け、ご遺族がその内容を承諾する場合は、示談書を作成することになります。示談案の内容に納得できない点があれば、さらに交渉を進めることになります。
示談案の内容を承諾した場合には、相手方保険会社から示談書が送付され、遺族の代表者が署名押印することで示談が成立します。また、示談書作成の際に、賠償金の振込先口座を併せて記載することになります。
賠償金の支払いを受ける
示談書が返送されたら、相手方保険会社から賠償金が支払われます。示談書返送から10日前後で支払われることが多いようです。
示談が成立しない場合
示談交渉の結果、相手方保険会社と折り合いが付かず、示談が決裂した場合の通常の流れとしては、損害賠償請求訴訟を提起することになります。
なお、事案によっては、訴訟提起をする前にADR(交通事故紛争処理センターなど)を利用することもあります。
弁護士に依頼しないことにより起こり得るデメリット
死亡事故の場合、被害者ご本人が事故状況を説明できないため、被害者側の過失割合が高めに設定され、争点となることがあります。
また、被害者遺族の方が加害者に対して賠償請求することができる損害としては、主に死亡するまでの怪我による損害(治療関係費、休業損害など)、葬儀費用、死亡事故における逸失利益、死亡慰謝料があるのですが、その中でも、特に逸失利益と慰謝料の提示額が適切でない場合があるので注意が必要です。
このような争点や注意点に関しては、交通事故に注力する弁護士に依頼することにより、適切な解決に導くことも可能です。
したがって、適切でない賠償額で示談を成立させてしまうということこそが、弁護士に依頼せずに示談交渉を行った場合のデメリットであるといえるでしょう。
以下では、相手方保険会社の賠償提示額を適切に判断することができるよう、過失割合、逸失利益、死亡慰謝料について簡単に説明いたします。
過失割合について
交通事故実務上では、過去の裁判例の蓄積などにより、交通事故の状況を一般化・類型化し、ケース毎に基本的な過失割合とそれを修正すべき要素が定められています。
これが記載されている書籍が「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(全訂5版)」(別冊判例タイムズ38)であり、実務上「判タ基準」などと呼ばれています。
このように、過失割合の基準はある程度類型化されているのですが、加害者側の保険会社が常に適切な判タ基準の交通事故類型を選択しているわけではありませんし、そもそも加害者本人が自身に都合の良い説明しかしていない場合もあります。
そのため、加害者側保険会社が適切な過失割合の提案をしていないときには、事故態様などについて争っていかなければなりません。
死亡事故における逸失利益について
死亡事故における逸失利益とは、交通事故の被害者の方が事故に遭い亡くなってしまったことにより、得られなくなった将来得られたであろう収入のことをいいます。
死亡事故における逸失利益は、原則として以下の計算式により算出されます。
①基礎収入×②(1-生活費控除率)×③就労可能年数に対応するライプニッツ係数
①基礎収入額について
原則として、事故前の1年間の収入が基礎収入となります。
亡くなられた被害者の方の職業によって内容が異なるので簡単に説明します。
サラリーマンの方が亡くなられた場合には、原則どおり事故前1年間の控除前の総支給額が基礎収入となります。
自営業やフリーランスの方が亡くなられた場合には、事故前年の確定申告の申告所得額が基礎収入となります。もっとも、申告所得額が実態と異なっている方もいらっしゃいます。そのような場合には、実際の収入額を客観的資料により証明することができれば、実際の収入額が基礎収入となります。
家事従事者(主婦(主夫))の方が亡くなられた場合には、給料という形の収入こそありませんが、家事労働には経済的な価値があると認められているので、家事従事者方であっても逸失利益を請求することができます。具体的には、全年齢の女性の平均賃金を基礎収入とします。
高齢者の方が亡くなられ、その方が年金を受給していた場合は、その年金を将来受け取ることができなくなってしまうので、逸失利益を請求することができ、年金額を基礎収入とします。
子ども(学生の方)が亡くなられた場合は、収入はありませんが、将来働くことで得られるはずであった分について逸失利益を請求することができます。具体的には、男女別の全年齢の平均賃金を基礎収入とします。大学生の方の場合は、大卒者の平均賃金を基礎収入とします。
②生活費の控除率について
亡くなられたことにより生活費がかからなくなるため、その分を控除する必要があります。原則として以下の割合を収入額から控除します。
- 一家の支柱:30~40%を収入額より控除
- 女子(主婦・独身・幼児を含む):30~40%を収入額より控除
- 男子(独身・幼児を含む):50%を収入額より控除
③就労可能年数に対応するライプニッツ係数
原則として、67歳までを就労可能年数としますが、開業医・弁護士については70歳までとされる場合もあります。およそ55歳以上の高齢者(主婦を含む)については67歳までの年数と平均余命の2分の1のいずれか長期の方を使用します。
また、逸失利益は、原則として、全額が一括で支払われるのですが、将来の賠償金を先に受け取ることになるので、上記の年数に対応する、将来の利息(中間利息)を考慮した数値を用いて計算することになります。これをライプニッツ係数といいます。
例えば、症状固定時の年齢が50歳であれば、就労可能年数が12年(67歳-50歳)となります。そして、就労可能年数が12年の場合のライプニッツ係数は「9.954」となるので、この係数を用いて計算していくことになります。
このような後遺障害逸失利益については、相手方保険会社が適切な基礎収入や就労可能年数を採用しているのかなど問題となる点が多くあり、そのどれもが賠償金額に大きな影響を与えるものであるため、注意が必要です。
死亡慰謝料について
死亡事故の慰謝料も、傷害慰謝料(入通院慰謝料)や後遺障害慰謝料と同様に、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準(裁判所基準ともいいます。)があります。
自賠責基準
自賠責基準は、自賠責保険で保険金を計算する際に利用されているものです。
自賠責保険は、もともと交通事故被害者に対する最低限の給付を目的とする保険であるため、支払金額も当然低くなります。
具体的には以下のような金額になっています。
- 死亡事故の被害者本人の慰謝料 400万円
- 遺族(配偶者・子・父母)の慰謝料
・遺族1名の場合 550万円
・遺族2名の場合 650万円
・遺族3名以上の場合 750万円
なお、被害者に扶養されていた者がいる場合、上記金額に200万円が加算されます。
任意保険基準
任意保険基準は、任意保険会社が保険金を計算するために独自に定めている基準です。
自賠責基準よりは多少高めに設定されていることが多いようですが、後述する弁護士基準と比べるとかなり低い金額に設定されています。
弁護士基準
弁護士基準は、過去の裁判例等を元にした法的に根拠のある正当な基準です。
裁判で謝料を請求するときにも採用されているものなので、裁判所基準とも呼ばれています。金額的にも上記の3つの基準の中で最も高額になります。
弁護士が被害者の方の代理人となって示談交渉を行うと、弁護士基準を前提として交渉を行うため、被害者本人が任意保険会社と直接交渉を進めた場合と比べ、大幅に示談金が増額されることになります。
なお、被害者本人が弁護士基準で計算することを求めても、任意保険会社が応じることはありません。
具体的には以下のような金額になっています。以下の金額には、上記の自賠責基準にあった遺族の慰謝料も含まれています。実際の裁判では、事案ごとの個別事情により増額されることもあります。
- 被害者が一家の支柱の場合 2800万円
- 被害者が母親・配偶者の場合 2500万円
- 被害者がその他の場合 2000~2500万円
なお、「その他」とは、独身の男女、子供、高齢者などとされています。
このように、死亡慰謝料については、どの基準を採用するかにより大きく賠償額が異なってくることになるため、注意が必要です。
まとめ
示談の流れや、上記のような注意点を理解していたとしても、実際にはご遺族の方だけで手続きを進めていくことは困難といえるでしょう。
そこで、死亡事故によりご家族やご親族を失われたご遺族の方たちは、交通事故事案に注力する弁護士に相談・依頼されることをおすすめいたします。
当事務所では、交通事故に遭われた方、そのご遺族の方に、お気軽にご相談いただけるよう、交通事故に関する初回相談を無料で行っておりますので、是非、北九州・小倉の当事務所までお気軽にご相談ください。
交通事故でご家族やご親族を失った悲しみは決して癒えるものではありませんが、弁護士に相談し、交渉を任せることで、負担が軽くなり、少しでもお気持ちが楽になるよう全力でサポートさせていただきます。